社員インタビュー

安野貴博氏と語る、これからのAI活用と社会システム変革の未来

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安野貴博氏と語る、これからのAI活用と社会システム変革の未来

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CHECK POINT

  • テクノロジーで未来のシステムを考える
  • AI時代こそ資源や顧客接点が重要
  • 日本には大きな変革の可能性が眠っている

未来のシステムの可能性を考える

大倉 安野さんが7月に上梓した『松岡まどか、起業します AIスタートアップ戦記』を拝読したのですが、ビジネスのハードシングスがリアルに描かれており、デジタル・イノベーション部(DI部)の必読書にしたい内容でした。ご自身の中で、エンジニアや起業家の仕事とSF作家としての活動はつながっているものなのでしょうか。

安野 いろいろなことをやっているように見えるかもしれませんが、私は一貫してテクノロジーを通じて未来の社会やシステムを考えたいと思っています。今年東京都知事選に出馬したのも、現代の技術をどう使えば社会のシステムを変えられるのか考えたかったからなんです。

大倉 なるほど。私たちDI部も、AIを使ったシステムの変革に取り組んでいる点は共通しているかもしれません。例えば昨年から導入している「Marubeni Chatbot」は現在丸紅グループ内で約8000人が利用していて、業務の効率化に貢献しています。

安野 社内に専門組織があるとビジネスの進み方がぜんぜん違いますよね。先端的な技術とビジネスサイドのニーズの双方を理解できると戦略に広がりも生まれます。

大倉 ありがとうございます。まさに我々もそれを実感しています。それにしても、ChatGPTは明らかにビジネスに影響を与えていますが、生活レベルへのAIの浸透はさらに加速していますよね。ビジネスパーソンだけでなく学生も当たり前のようにAIを活用するようになっています。

画像:AIエンジニア/起業家/作家 安野貴博

 

安野 10~20年スパンで見れば、ChatGPTのように人間以外の知性へ当たり前のようにアクセスできるようになったことは、社会に大きな変化を与えるのではないかと思います。なかでも生成AIがエンパワーしているのは、小さな組織や個人でしょう。ハリウッド級の予算がないとつくれなかった映像を個人レベルでもつくれるようになるなど、個人の可能性はかなり広がりました。

大倉 個人の可能性が広がったという意味ではChatGPTがリリースされたときにとあるコンサルティング会社が発表したレポートでも、若手が生成AIを活用することでベテランのパフォーマンスに肉薄できることが明らかになっていました。仕事の取り組み方も大きく変わっていくのだな、と。

安野 人間としてどう仕事に取り組んでいくべきか悩ましくもありますね。限られた領域でAIより高いクオリティーを発揮し続ける選択肢もあるし、AIを活用して幅広くスキルポートフォリオをつくることもできるわけですから。

大倉 商社としては、既存領域ではドメインナレッジを磨きこむことになりますが、新規の取り組みが常に求められていることを考えると、後者のようにAIを幅広く活用していく方向ではないかと思っています。人間はAIをフル活用しながら、発想力と実行力を高めていくことになるのかなと感じます。

画像:丸紅 デジタル・イノベーション部 大倉耕之介

総合商社で求められるAIとの向き合い方

大倉 AIはやはりデータ量が多いBtoCの事業により多く活用されてきました。丸紅はBtoBの事業が中心でこれまでAI活用が難しい領域も多かったのですが、生成AIの高度化や扱うデータの量が増えてきたことで状況も変化しています。商社はある意味デジタル化が進む以前からさまざまな業界をつなぐプラットフォームをつくっていたわけで、たくさんのステークホルダーを集めてデータをつなぐことで網羅的なデジタルプラットフォームを新たに構築できるはずです。

安野 デジタルでさまざまな業界をつなぎながら、丸紅さんがビジネスをAP(I Application Programming Interface)で連携させていくようなイメージですね。商社は「人」の力が強い業界だと思うのですが、AIのような技術の導入に対して抵抗はなかったのでしょうか?

大倉 やはりハードルはありますね。一つ一つ実績を積み重ねながら社内の信頼を獲得していくしかないと思っています。

安野 他方で、今後AIは自律的に人と人とのコミュニケーションに入っていくことになると思うので、丸紅さんのように大きな組織こそAI活用の可能性も大きいと感じます。

大倉 まだAIのファシリテーションには限界がありますが、今後技術の発展によって状況も変わりそうですね。チャットやメールのやりとりを学習しながらAIが前後関係や背景を理解できるようになると、コミュニケーションの方法も大きく変わっていきそうです。

安野 今までの仕事をそのままITやAIに変換するのではなく、AIと人間の得意な領域をきちんと区別して業務プロセスを変えていく必要も高まります。例えば医療の現場ではレントゲン画像の診断を行うAIの導入が進んでいますが、すべてをAIに任せるのではなく、AIで大きくスクリーニングし、人間がそれらを精査するというプロセスになっている。

大倉 面白いですね。人間は機械より自分の方が正確な判断を行えると思ってしまいがちですし、マインドを変えていく必要がありそうです。AIが仕事を奪うと考える人もまだ多いでしょうから。

安野 AI導入に対して抵抗が大きい組織に対しては、現状のプロセスにおける人間の誤謬率を調べてみることをお勧めします。案外現状プロセスでも人間が間違えているということが分かり、AIと作業分担する意義が理解しやすくなります。

日本は世界的に見ても今後労働人口の減少が明らかですし、AIに仕事を奪われるというよりAIによって人手不足を解消するインパクトの方が大きいでしょう。ただ、AIに限らずこれまでも技術の発展によって失われる仕事があることは事実です。そんな技術的失業を補助金やリスキリングという形で支援していくのが行政や政治の仕事です。それによって全体としてソフトランディングを目指していくべきだと思います。

今後10年でAIがもたらす変化

大倉 AIの発展スピードは非常に速いですし、未来の変化を予測することはますます難しくなっています。2030年ごろにはどんな変化が起きると思われますか?

安野 専門家の中でも見解が大きく分かれますし、難しい問題ですね。個人的には、ソフトウェア内で完結するエージェントレベルなら人間と同程度の賢さをもつAIが実現されるのではないかと思っています。ただ、旅行の手配くらいなら自動的にAIで最適な処理を行ってくれるようになると思いますが、顧客向けの資料作成や経営計画の戦略まで策定できるかは怪しいところです。

大倉 同感です。戦略策定レベルまでAIを活用できるのか、実際には膨大な資料を特殊なドメインナレッジと組み合わせなければいけないので、あと10年くらいはかかるような気がしています。

安野 一方、AIがエキスパートとコミュニケーションしながら思考を進めることにより、ある程度戦略策定もできるようになる可能性はあります。そうなると、今後営利企業のゲームの構造は変わりますし、多くの企業がどこに競争優位を置くか考えていかなければいけないでしょう。その点、例えば丸紅さんが原油や鉱山など資源を物理的に押さえていることは大きな強みですよね。AI時代になっても、すべての会社のCEOがAIに代替されても、資源の重要性は変わりませんから。

大倉 AIで代替できないものはたしかにありますね。小売業の変遷を考えてみても、メーカーが強かった時代から顧客との接点を押さえている小売店の力が強くなっていったように、顧客接点やロイヤリティーの重要性は今後ますます高まっていくのかもしれません。

技術の変化との向き合い方

大倉 未来予測が難しくなっていく中で、安野さんはどのように技術の変化と向き合うべきだと思われますか?

安野 個人的には、自分で触ることが最も重要だと思っています。SNSを見ると日々新たなサービスのすごさが喧伝されていますが、実際に触ってみて初めて、それがどれくらいすごいのか理解できる。AIについて積極的に情報収集している人でも二次情報だけを見ている人は少なくないので、実際に触るだけでも有利な情報のギャップを生み出せますし未来を考える上でも大きな意味があります。

大倉 おっしゃる通りですね。昔は年配の方を中心に「ITのことは知らなくても恥ずかしくない」といったムードもありましたが、今は年代を問わず技術への興味関心が生き方を左右してしまう気がします。

安野 技術が多様化し「ITリテラシー」の意味も変わっているのかな、と。基本的にはみんな知らないことが前提で、その上で新しいものにどう興味をもって学べるか、手を動かしてつくれるかが重要になっていくのだと思います。どんな技術を扱えるかではなく、何かを実現しようとする意志、「やりきり力」を持っている人が強い時代になるのかもしれません。

大倉 何かをやりきる上での意思決定や合意形成もAIと親和性が高いですよね。特に商社では投資の意思決定や合意形成の際に上層部まで現場の情報が共有されていなかったりきちんとコミュニケーションが行われていなかったりすることも少なくありませんでした。情報をきちんと共有していくためのAI活用に今後は期待しています。

安野 合意形成は、ビジネスの文脈に限らず日本のAI活用にとって重要です。日本は新たな技術への抵抗が小さく、社会の分断も欧米ほど深刻ではない。人口動態や文化の面から、大きな変革が起きるのは欧米ではなく日本や台湾からだと思っています。特に大倉さんがおっしゃるような情報の流れについては、社会システムを考える上でも重要でしょう。政治家や官僚に閉じるのではなく誰もが情報を交換しあって合意形成を行える新たなパスをつくりたいと思いますし、AIのような情報技術はコミュニケーションの問題を解決するカギとなっていくはずです。

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