

穀物生産・輸送データを統合するCGI Mapping Project
あらゆる知を可視化しデータドリブンな意思決定を実現
CHECK POINT
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丸紅の米国子会社CGIが穀物生産・流通を効率化するツールを開発
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誰もが扱える柔軟なダッシュボードにより社内の意思決定をクリアに
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データインフラの整備と管理ツールの開発は他業種への展開も期待される
大きなインパクトが期待される農業DX
近年業界を問わずさまざまな領域でDXが加速しているが、なかでも大きな変革が期待されているのが農業ビジネスだ。とくにアメリカのように広大な土地でビジネスが展開されている環境にあっては、生産からロジスティクスに至るまでさまざまなフェーズのデータを活用することで、効率化を筆頭に大きなインパクトが生まれると考えられている。
総合商社として世界各地で農作物を扱ってきた丸紅もまた、DXに大きなチャンスを見出していた。2022年から丸紅がアメリカの子会社Columbia Grain International(CGI)とともに推進しているマッピングプロジェクトは、農業におけるDXを象徴する取り組みと言える。
本プロジェクトが標榜したのは、農作物に関する多様なデータを統合した汎用的マッピングアプリケーションの開発だ。穀物の生産においては各地に点在する「グレイン・エレベーター」と呼ばれる大規模施設に穀物が集約されて処理されるが、これまでは各エレベーターの情報が分散している状況にあったからだ。
多様なデータを地図に落とし込み可視化
そこでCGIは、穀物に関するさまざまなデータをひとつの地図上に落とし込んでいった。本プロジェクトが制作した地図に活用されるデータは、実にさまざま。米国農務省(USDA)が公開している作物の種類や生産量をまとめたデータセットや鉄道の路線データといった一般に公開されている情報はもちろんのこと、CGIが提供するエレベーターの情報や、その周囲で栽培される作物の種類、生産量、さらには競合他社の情報など、ありとあらゆるデータが地図上にマッピングされた。
もちろん、ただ地図上にデータを落とし込めばいいわけではない。データインフラを整備したうえで、CGIはダッシュボードの開発を行い、各エレベーターが扱う穀物の量の変化や地域の生産量に対する市場シェアなどを時系列に沿って分析できるようなツールを生み出している。
本システムはAzureやAWSの活用はもちろんのこと、地理情報を包括的に管理するプラットフォーム「ArcGIS」やBI(Business Intelligence)に特化したデータの視覚化ツール「Tableau」など複数のツールを組み合わせながら構築されている。こうしたツールの組み合わせにより、柔軟性を担保するとともに、カスタマイズ性も向上したという。
こうしたデータの活用によって、属人的な知識や経験が可視化され、社内での効率的な情報共有が実現する見込みだ。さらには市場シェア拡大のための新規エレベーター開発や、競合他社との比較分析、季節ごとの生産量の分析などを行うことで、事業の意思決定もよりクリアに行えるようになっていく。本プロジェクトが制作する地図とダッシュボードは、CGIの戦略的な意思決定を支援する強力なツールとなりうるだろう。
データドリブンの意思決定を加速させるために
現在このマッピングツールの開発は最終段階を迎えており、専門的な技術をもたずとも多くのスタッフがツールを利用できるよう調整が重ねられている。エレベーターのマネジメントや営業、投資戦略の策定など業務領域を問わず誰もが使えるツールを実現することでこそ、そのインパクトが最大化されるからだ。
さらに今後は作物の生産量やオープンデータだけではなく、GPSの情報やロジスティクスの交通量、天候などさまざまなデータを組み込んでいくことで、穀物の生産と輸送の効率化がさらに進んでいくことも期待されている。従来扱われてきた「エレベーター周辺での栽培面積」といった静的な情報から「生産量の経年変化や競合他社の生産量」など動的な情報を扱えるようになることで、データドリブンな意思決定はさらに加速していくだろう。
本プロジェクトが取り組んだデータインフラの整備やマッピングインターフェースの開発は、穀物の生産・輸送や農業ビジネスのみならず、さまざまなデータ活用における優れたテンプレートにもなりうるだろう。総合商社のようにさまざまな資源を扱うビジネスこそ、横断的なデータ活用のインパクトは今後も高まっていくはずだ。