

顔認証決済システムで交通インフラをサステナブルに
柔軟なプラットフォーム構築が安定したサービスを実現
CHECK POINT
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鉄道事業者のコスト削減のため顔認証決済システムを開発
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複数の顔認証&決済ベンダーをつなぐ柔軟なプラットフォーム
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顔認証システムをインフラとして多様なシーンへ展開も
顔認証決済で鉄道事業者のコストを削減
全国的に加速する少子高齢化に加え、大都市への人口集中により、日本各地で鉄道事業者が経営に課題を抱えていると言われる。もちろんSuicaやPASMOといったICカード乗車券(スマートフォンアプリも含む)を導入し省人化することでコストの削減も進んでいるが、同時に料金箱や改札機の保全・交換コストが無視できないものになっていることも事実だ。
こうした課題を解決し、全国の交通インフラを維持していくためにはどうすればいいのか。長年多くの交通事業者と事業を共にしてきた丸紅が注目したのは、顔認証決済サービスだった。市販のタブレットを使った決済システムが実現すれば運用コストも下がるほか、スマホの扱いに慣れていない高齢者でも違和感なくサービスを利用できる。かくして丸紅は2020年から交通機関における顔認証決済システムの開発・実証へ着手していった。
もっとも、「顔認証」と「決済」はどちらもプライバシーの観点から見て配慮すべき点が多く、一朝一夕で導入できるものではない。丸紅はまず顔認証のみの実証実験を社内で行ったうえで、長野・信州大学で顔認証を使った出席確認システムの実証実験を実施。2022年には顔認証システムの精度や安全性を担保できることがわかったため、2023年からは決済まで紐づけた実証実験も行われた。複数の段階を経て、今年度以降は本格的な導入に向けた検討が進んでいるという。
複数のベンダーをつなぐ柔軟なプラットフォーム構築
実際のシステム開発においては、丸紅デジタル・イノベーション部が外部の開発会社を営業部とつなぐようにしてコミュニケーションが進んでいった。実証実験についても丸紅自身が開発費を投じて長野や富山で実証を行ったケースもあれば、熊本市交通局の入札事業に採択されて行われたケースもある。これまでの実証実験での顔認証決済は、無事に大きなトラブルは発生せず完了している状態だ。
今回の顔認証決済プラットフォームのポイントのひとつは、顔認証技術をゼロからすべて構築しようとするのではなく、あくまでもプラットフォームを整備し複数の顔認証ベンダーや決済ベンダーをつなぎ込めるような環境を構築した点にある。仮にひとつの企業の顔認証や決済だけを前提としたシステムをつくってしまうと、何らかの機会に連携の問題が生じるとそこで広がりが阻害されてしまう。とくに公共交通機関のような社会インフラを支えていくためには、こうした柔軟性が大きな意味をもっていたと言えるだろう。
丸紅に限らず近年多くの企業が顔認証を活用したサービスに取り組んでおり、その利便性はたしかに高いものの、多くの人々が漠然とした抵抗感を覚えていることも事実だろう。だからこそ、より安定的なプラットフォームを整備していくことは、社会全体の顔認証活用を進めていくうえでも意味があることなのかもしれない。
丸紅のネットワークを活かした多面的展開
これまでの実証実験を通じて交通インフラと顔認証決済の相性がいいことがわかったため、現在は交通インフラを主たるフィールドとして本プロジェクトは進行しているものの、今後はスタジアムの入退場管理などさらなる広がりも検討されている。
もちろん安心・安全な顔認証決済システムをつくることは必要不可欠だが、本プロジェクトにおいては、丸紅のもつネットワークが活かされていることも見逃してはならないだろう。交通インフラひとつとっても総合商社として多様な事業に関わっているからこそ事業者の壁を超えた一体感の醸成を行いやすく、実際に長野や富山の実証においても各県の支社がこれまで地域の交通事業者と密にやりとりしていたからこそスムーズに実現したことも事実だ。
あくまでも丸紅は顧客の価値を第一に考えているのであり、今回開発された顔認証決済システムも多岐にわたる「ツール」のひとつにすぎない。技術への偏ったこだわりをもたないからこそ、むしろ技術的に優れたサービスを提供できるといえる。公共交通機関のように多種多様な人々が活用する社会インフラには、これからはこうした生活者目線のアプローチが必要不可欠となっていくのだろう。