

エンジニアが主体的にビジネス×デジタルの可能性を拡張
テクノロジー活用に求められる“当事者意識”のありよう
CHECK POINT
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AIに精通するエンジニアとしてインターンから活躍
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社内LLM活用から出版業界のDXまで幅広い業務領域
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ビジネスに“効く”AI活用がインパクトを最大化
職種を問わずビジネスに深くコミットできる環境
──芹川さんはデジタル・イノベーション部でのインターンを経て入社されたそうですね。デジタル・イノベーション部ではインターンの方も多く勤務されているのでしょうか?
芹川武尊(以下、芹川) もともと私はIT企業やITベンダーでインターンやアルバイトの経験があったものの、総合商社でどのようにDXが進んでいるのか興味があったためインターンへ応募しました。いまでも同じようにインターンを受け入れていますし、そこから入社へつながるケースも少なくありません。
インターンのメンバーはデータ分析などテクノロジーの知見を有する学生が多いのですが、単なる作業だけではなく、プロジェクトに深く携わることもあります。私自身、2020年2月にインターンを始めてから、電力本部とともにEVに関する新たなサービス開発に関わっていました。要件定義から実際のシステム開発、プログラミング、ソリューションの戦略検討まで、幅広い業務を担当していましたね。
──デジタル・イノベーション部のメンバーだけでなく他部署とも並走されていたわけですね。
芹川 デジタル・イノベーション部は、ほかの企業と比べてもエンジニアが入れるディスカッションの幅が広いと感じます。IT企業はビジネス側とエンジニア側の線引きがはっきりしているケースも多かったのですが、デジタル・イノベーション部はエンドユーザのことを考えながらエンジニアリングについて考えられる環境が刺激的でした。
加えて、デジタル・イノベーション部は中途で入る方が多いこともあり、それぞれのメンバーの専門領域をリスペクトしあう関係性があると感じています。だから年次によらずプロジェクトに深く関われる機会もありますし、同時に一人ひとりが専門性を磨きつづけていくことが重要になっていると思います。
画像:芹川武尊
エンジニア主導で全社のAIリテラシーを向上
──その後2022年に入社され、現在はAIやデータ分析の業務をメインにご担当されているそうですね。
芹川 私はエンジニアでもあるのでシステムやアプリケーションの開発に携わる機会が多いのですが、なかでも昨年から注力しているのは、生成AI技術の社内展開です。OpenAIによるLLM(大規模言語モデル)「GPT-4」のリリースをきっかけに、テクノロジーに詳しくない社員でも生成AIを扱えるよう社内向けチャットボット「Marubeni Chatbot」を開発しました。社内のユーザを増やすとともに、さまざまなユースケースを収集しながら継続的に機能も拡張しています。
現在は8,000名以上のユーザが利用しており、英文メールの作成や財務モデルの壁打ち、社内規程集の要約など、幅広い業務で活用されています。もちろん社内にはAIに明るくない方もたくさんいるので、このチャットボットには音声認識モデルや画像認識モデルなど多くの機能を詰め込むことで、いまのAIに何ができるのか実感できるものをつくることを意識していますね。いまも日々アップデートを続けていますし、今後はもっと丸紅グループ内に広げていく必要があると思っています。もちろん便利なサービスをつくることは大前提ですが、商社のなかで働くエンジニアとして、グループ全社のデジタルリテラシーを向上させることも重要ですから。
──ほかにはどのようなサービス開発に取り組まれているのでしょうか。
芹川 大きな取り組みとしては2022年に講談社と小学館、集英社という大手出版社のみなさまと丸紅が立ち上げた「PubteX」の事業が挙げられます。PubteXは印刷や配本、販売など出版のサプライチェーンにAIを導入することで、業界全体の効率化を進めようとしていますね。私自身もPubteXの事業には関わっており、出版社のみなさまへヒアリングを行い、要件を洗い出しながらDXを進めていこうとしています。エンジニアが手を動かしてプロトタイピングを行うとビジネスの解像度も上がりますし、全員が同じイメージを共有しながら議論を進められるようになりました。ただ開発を受託するのではなくエンジニアが主体的に事業の構想にも関われるのは面白いですし、よりスムーズにソリューションの検討も進めていけると感じます。
事業への深い関与がデジタルのインパクトを最大化
──商社がデジタル・イノベーション部のようなDX推進組織を有する強みを感じることはありますか?
芹川 ビジネスの成否に直接コミットしている点が大きいですね。たとえば最先端の研究を行おうとするITベンダーは少なくありませんが、新しい研究結果を使えば新しいビジネスが生まれるわけではありません。私たちは研究としての新規性ではなく、成熟した技術を使っていかにビジネス課題を解決できるか考えつづけています。“使える”テクノロジーにフォーカスし実装までつなげていく意識をもったメンバーが多いんです。
とくにAIやデータサイエンスの分野を考えると、一般的には当事者意識をもって事業に取り組める機会が少ないと感じています。エンジニアやデータサイエンティストはビジネスの責任をもつわけではありませんし、ITベンダーであれば開発を受注すれば仕事が成立してしまうので、そもそもの問題設定から問いなおすような機会も生まれづらい。デジタル・イノベーション部は一緒にビジネスの責任を負いながらデジタルの活用を進められるところが強みだと感じます。
加えて、商社は業界の垣根を超えてさまざまな領域の方とつながれる環境にあるので、AIのような新しいテクノロジーの活用を考えるうえでも大きなインパクトにつながっていきます。業界によってはこれまでAIやDXが論じられてこなかった領域もたくさんありますし、各部門の課題をつぶさに観察していくことで新たなビジネスのアイデアが生まれることも少なくありません。
──他部署との連携も重要になっていきそうですね。
芹川 デジタル・イノベーション部の設立当初は営業部からの信頼もそこまで高くなかったかもしれませんが、いまは熱意やビジョンをもってビジネスを進めていきたいと考えている方からの依頼が増えてきています。ただの効率化や自動化だけではなく、事業レベルでサポートできる部署だと思ってもらえるようになってきているのかなと思います。
同時に、将来的にはデジタル・イノベーション部としてより事業の中身に深く入り込んでいく必要性を痛感しています。現状は組織としての規模も大きくないので大量のプロジェクトを掛け持ちせざるをえないのですが、本来は一つひとつの事業に入り込み、エンドユーザへの営業活動も含めてビジネスそのものへ関わっていかなければいけないと思っています。
デジタルの観点では、DXの再現性を高めていくことも重要です。現状は私個人のスキルセットに依存してしまう部分もあるため、属人性から脱却して、組織の仕組みとして再現性を高めていく体制をつくっていく必要がありますね。業界によってはいまでもFAXを使わなければいけない領域もありますし、なんでもかんでも最先端のテクノロジーを導入すればいいわけではありません。業界ごとに状況が異なるなかで、どうやってDXを進めていくのが好ましいのか、きちんと寄り添いながら今後も各部署との連携を広げていきたいです。