

広大なアメリカをデータでつなぎDXを推進
デジタル活用が生み出すこれからのビジネスインフラ
CHECK POINT
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アメリカに展開する広範な事業をDXでサポート
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アメリカ全土に散らばるデータをつなぎ課題を解決
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データ活用のインフラを整備しインパクトを創出
各部署と連携し数百件の定型業務を自動化
──田中さんは現在デジタル・イノベーション部からアメリカ・ニューヨークに駐在されています。丸紅のアメリカ事業におけるDXを担当されていますね。
田中光久(以下、田中) 現在ニューヨークでは4名のメンバーが働いており、私以外はすべて現地で採用されています。私自身は2009年に新卒で丸紅へ入社したのですが、商社なのでデジタル・イノベーション部に限らず海外で働いているメンバーはかなり多いですね。
私はもともと電力インフラの領域で経理を担当してから、2013年に中国で子会社を立ち上げ、2年ほど経営に携わることになりました。日本に戻ってからは、海外工事事務所の税務や総務の管理を担当していました。当時の丸紅は発電所などのインフラ設備を海外につくることが多く、現地で税務コンサルタントや財務省、税務署と交渉する機会が多かったのです。当時の所属部署で提携業務の自動化チームを立ち上げた後、デジタル・イノベーション部に転籍し、2022年からアメリカでのチームビルディングを推進するためにニューヨークへの駐在が決まりました。
──田中さんはもともとデジタル・テクノロジーの活用にも携わられていたのでしょうか。
田中 大学で情報系の研究を行っていたのでプログラミングの知識もありましたし、入社当時から定型業務の自動化には取り組んでいました。異動前後はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション) が流行りはじめていた時期で、基幹システムへの入力作業やレポーティング作業をはじめ、のべ数百件の業務自動化案件を進めました。
2018年にはシステム推進課を立ち上げ、営業部やバックオフィスを中心に自動化を進めるだけでなく、研修やワークショップを主催しながらデジタルに関する知識を全社に広げていきました。当初は業務の自動化に抵抗を覚えるメンバーも少なくなかったのですが、仲間を増やしながら全社にデジタル化の流れをつくっていく経験は貴重なものでしたし楽しかったですね。
画像:田中光久
全米に広がる穀物ネットワークをデータで効率化
──アメリカのみならず海外事業に多く携わられるなかで、丸紅の魅力や強みを感じられることはありますか?
田中 とくにデジタル・イノベーション部は、さまざまな子会社と接点をもてることが面白いですね。子会社といっても丸紅の場合は会社の規模が大きいですし、手掛ける事業も大きく異なります。たとえば現在私が連携している範囲だけでも、穀物の事業や牛肉の加工業、冷凍トレーラーのリースやロジスティクスなど、かなり規模の大きなビジネスが多いですね。
加えて、デジタル・テクノロジーの観点から見れば、潜在的にどの領域にも豊富なデータがありますし、AIやデータ分析を活用するポテンシャルも非常に大きいです。こうしたデータを扱いつつ現場の経営者と対話しながらビジネスを進められるのはグローバルな商社ならではの面白みでもあり、強みにもなっていると感じます。
──ビジネスの規模が大きくなっていくと、デジタル・テクノロジー活用の可能性も高まっていきそうです。
田中 DXへの期待やニーズはかなり高まっていますね。もちろん10年以上前からビッグデータの重要性は認識されていましたが、データの総量が段違いに増えていますし、ツールも進化しているのでより高度な分析を行えるようになりました。
たとえば穀物事業なら現在はUSDAのサイトで公開されている膨大なデータのほか、鉄道の路線網や実際に事業で扱っている穀物の生産量や輸送量のデータを地図上にマッピングできるようになっています。AI活用以前の話かもしれませんが、かつては地図に手描きで行っていた作業をデジタル化できるだけでもインパクトは大きいですね。
──具体的には現在どのような取り組みが進んでいるのでしょうか。
田中 全米には穀倉地帯が散在しているため、穀物の効率的な収集と分配は伝統的な課題でした。各地にはエレベーターと呼ばれる集荷拠点があり、周囲の農家から陸路や水路などを通じて集めた穀物を適切なタイミングで輸送する必要があるのですが、これまでは効率的な運用が進んでいませんでした。もちろん各拠点からレポートは上がってくるんですが、レポートだけ見ても資産の効率的な配置は難しいんです。そこで収集や輸送のデータをすべてマッピングすることで、経営が地図を見ながらスムーズに意思決定を行えるツールづくりを目指しています。
あるいは冷凍トレーラーのリースにおいても、これまで運行情報や庫内の温度のデータは収集できていたのですが、実際にはデータに不備があることも少なくありませんでした。そこで私たちは3年前からセンサーの故障などデータの不備を見直しながら、トレーラーの故障検知を行えるシステムの実証実験に取り組んでいます。
日本で昨年リリースされた丸紅社内用のAIチャットボット「Marubeni Chatbot」のアメリカ展開にも取り組むなど、デジタル・イノベーション部としては小さなプロジェクトも増やしながら、徐々に経営課題にも取り組めるような機会を増やしていきたいと思っています。
データ活用のインフラを整備しアメリカ事業を加速
──アメリカで働かれるなかで、日米のビジネスの違いを感じられることもあるでしょうか。
田中 アメリカはバックグラウンドもルーツも異なる人々が集まっているので、やはり日本とはビジネスの進め方や文化も大きく異なると感じます。アメリカに限らず海外では1on1のコミュニケーションがより重要となるので、個々のメンバーとのコミュニケーションを増やしながらクイックにチーム内の情報共有も進めるなど、仕組みづくりには注力していますね。
テクノロジーの観点から見ても、LLM(大規模言語モデル)のようなAI技術はもちろんのこと、GoogleやAWS、Azureといった日本で使われるプラットフォームの多くはアメリカでつくられたものですから、日米の差異は日々感じています。もちろんいまは日本にいてもプラットフォーマーが発信する情報へはアクセスできますが、アメリカにはAI企業も多いですしセミナーなどイベントの開催も増えているため、ニューヨークのメンバーはさまざまな場へ足を運びながら新たな情報へアクセスするよう心がけています。
──今後はどのようにアメリカでのビジネスを拡大していけるでしょうか。
田中 デジタル・イノベーション部としては、アメリカにある丸紅の子会社へインパクトを生み出せるプロジェクトを増やしていく必要があります。とくに営利企業である商社の各組織はきちんとPLへ貢献しているかが重要となるので、コストカットの推進や経営判断への貢献など、デジタル・テクノロジーの活用を通じて各社との連携を強めていきたいです。
アメリカは大きな国なので、データ活用ひとつとってもこれまでの環境がサイロ化されていて思うように取り組みが進まないことも少なくありません。本来は同じデータベースを活用できるのに各社が異なるデータベースへアクセスしてしまっていることもあります。
これからはデータ活用のインフラをしっかりと整えたうえで、種類の異なるデータをかけ合わせて新たな価値を生み出すような取り組みを広げていきたいと思っています。そのうえでAI活用も進めていくことで、デジタル・イノベーション部がハブとなりアメリカ全体の事業を加速させていきたいですね。