できないことは、みんなでやろう。
世界中のパートナーと築く水ビジネス
国土の大部分が砂漠で覆われているサウジアラビア。河川や湖は乏しく、雨もほとんど降らない。地下水だけではとてもまかなえず、真水の多くを海水からつくる。
約30年前から世界各地でさまざまな水事業を手がけてきた丸紅は、サウジでも水の安定供給の一翼を担うため「シュケイク3造水プロジェクト」に参画した。紅海沿岸のシュケイク地区に海水淡水化プラントを建設し、今年1月に商業運転を開始。同プロジェクトを落札した共同事業体のリーダーとして、丸紅はプラントの建設、保守、運転、資金調達のすべてを取り仕切る。
逆浸透膜(RO)方式の同プラントは世界的にも最大級の規模を誇り、1日あたり450,000㎥の水をつくっている。これは、200万人分の1日あたりの生活用水に相当する。この水を、丸紅が筆頭株主として現地に設立した企業を通じて、今後25年にわたってサウジの国営水道会社に販売する。
サウジをはじめとする中東諸国では、かつては石油や天然ガスを使った火力発電所に造水プラントを併設し、発電で発生する蒸気を利用して真水をつくる方式が一般的だった。これに対して、圧力を利用して塩分を除去するRO膜方式は単独の施設で造水でき、エネルギー効率も高い。近年は、技術革新によりプラントの建設コストが低下し、RO膜方式が主流になりつつある。
「水は公共インフラなので、自治体、警察、消防、関係省庁などステークホルダーとの関係構築が重要で、そこに相当な力を入れてやってきました」。そう話すのは、自身もカタール駐在中に同様の経験をした、環境インフラプロジェクト部環境インフラ第一チーム長の柴田俊次郎だ。柴田は1995年の阪神・淡路大震災で被災したとき、「人は水がなければ生きられない」と痛感し、水に関わる仕事を志したという。
現地のパートナーは水先案内人

世界の水市場は、2020年の70兆円規模から2030年には110兆円規模に膨らむと予想され、「『安全な水とトイレを世界中に』とSDGsのゴールの1つにもなっているように、水事業はこれまで以上に重要性が高まっている」と柴田は言う。人口が増え続け、発展途上国では都市化が進み、先進国の水インフラは老朽化が進んでいる。気候変動の影響で降雨量が減少した地域では、海水淡水化や下水処理水の飲用への再利用の需要が高まり、逆に増加した地域では雨水や排水の処理が課題だ。
丸紅は世界各地で1600万人に水道サービスを提供している。「これを5000万人規模まで増やしたい」と、環境インフラプロジェクト部副部長の菅原学は言う。柱の一つは、シュケイクのような大型プラントの開発だ。もう一つは、消費者に直接水道サービスを提供するコンセッション事業(チリ、フィリピン、ポルトガルで展開中)の拡大。さらに、民営化事業への新規参画も視野に入れている。そして、需要増大が見込まれる下水再生水事業への本格的な参入も目指す。

どの事業でも成功の鍵を握るのは、信頼できるパートナーとの補完関係であると、菅原は言う。「企業価値を高めるためのガバナンスに関する知見やファイナンスなど、我々の強みを提供する一方で、我々ができないことについては、現地のパートナーが水先案内をしてくれます」
あらゆるステークホルダーと力を合わせ、丸紅は、水という生活の基盤を支える仕事を積み重ねている。