ScopeNEXT GENERATION #1 | Japan Mastery Collection
伝統に、驚きを。文化に、遊び心を。

日本から世界へ、ラグジュアリーライフスタイルブランドの創造を目指すJapan Mastery Collection

ジェームズ・シムズ

東京-リモージュ、ヴェネチアングラス、ボルドー。

伝統、職人技、高級品というイメージを思い起こさせるこれらの名前は、その産地名が世界的に通用するブランドとなっている。しかし、寿司、アニメ、自動車など、日本から多くの文化・商品が輸出されている中で、世界で通じる産地の名前は、少なくとも今はまだない。

国内で通じるものなら、陶磁器、漆器、織物、食材で有名な地域が数多くある。にもかかわらず海外では、例えば九谷焼や会津漆器が一部で知られている程度、というのが現状である。

この状況を変えようとしているのがJapan Mastery Collection(JMC)だ。

JMCは、工芸品からアート、ファッション、食品に至るまで、日本の職人が扱う高品質な「地方の逸品」をブランディングし、自社の実店舗と越境ECサイトを通じて、適正な価格で世界市場に発信することを目指す。日本の伝統と細やかなモノづくりの精神を現代的な価値観と結びつけることで、ターゲットとしている日本文化に関心の高い海外の人々に働きかける。

今日、多くの生産者、そして業界全体が、売上高の減少、利益率の低下、後継者不足に直面しており、若い世代を惹きつけるような新たな取り組みができずにいる。その難問は、高齢化や若い世代の都市部への流出によってすでに打撃を受けている地方経済の悪化に拍車をかけている。実際、伝統的工芸品産業振興協会によると、2015年までの20年間で、伝統工芸品の生産額は75%減少して1,000億円(9億5,000万ドル)になり、職人の数は3分の1にまで減少して65,000人となっている。

丸紅の次世代事業開発本部でJMCのプロジェクトリーダーを務める日野翼は、この状況を変えるため、2019年から(株)羽田未来総合研究所とともにJMCに取り組んでいる。(株)羽田未来総合研究所(以下、羽田未来総研)は、羽田空港の運営を担う日本空港ビルデング(株)のグループ会社として、“HANEDA”のナレッジやポテンシャルを活かし、地方創生などのビジネスに取り組む企業だ。生産者との人脈や商品の選定・調達に優れていることも協業の理由のひとつとなっている。

「JMCの使命の1つは、地域経済の活性化を支援することです。活性化を支援する方法の1つは、注目を集めていない、または適切なマーケティングができていない、地方の逸品を見つけることです。 JMCを通じて、ブランディングを正しく行い、丸紅のグローバルネットワークを活用したマーケティングを行っていきたいと考えています。JMCが介在することで、地方の生産者は国際市場にアクセスし、知名度を上げ、利益を増やすことができます」と日野は話す。 「安定した収益がなければ、事業を引き継ぐための後継者教育も難しいのです。」

巨大なラグジュアリーインバウンド市場の可能性

JMCは、将来的に世界のラグジュアリーブランドのトップ100にランクインすることを目標に掲げていると、羽田未来総研で地方創生事業部長を務める楊井氏は話す。楊井氏は前職、三越伊勢丹の婦人雑貨・ファッション部門を長年にわたり担当し、中小型店舗の責任者などを経験している。

ハイブランドによるラグジュアリー品市場は、世界的に見ると3,000億ドル近い規模になる。トップクラスのラグジュアリー企業の売上高は100億ドル単位だ。

その数字から、いかに大きなポテンシャルを持つ市場かが伺える。

日本の観光庁によると、2019年の訪日外国人による買い物、宿泊、食事などの消費金額は合計4.8兆円に上る。小売支出は、訪日客1人あたりの平均支出159,000円の3分の1を占めている。にもかかわらず、伝統的な製品を購入した訪日客は10人に1人程度。対して靴やバッグを購入した人は20%、衣類では40%近くになる。また、数兆円規模となる日本からの越境EC取引においても、地方生産者の多くは参画できていないのが現状だ。

国の観光政策は、訪日外国人の消費を促進している。 政府は2016年に「観光ビジョン実現プログラム」を発表し、イタリア・フランス・タイなどのように観光産業を国の基幹産業に革新することを掲げた。その中で、2020年までに訪日外国人旅行者数を2倍の4,000万人に増やすことが目標となっており、2019年の訪日客は約3,200万人に達した。新型コロナウイルスによるパンデミックが終了すれば、訪日客数は上昇傾向に戻ると予想される。

クリックの獲得:ブランディングとデジタルプレゼンスキー

では、それらの訪日客や海外の顧客をどのように惹きつけるのか?

生産者と消費者を結びつけること。それが、マーケティング、ブランディング、価格設定にとって重要となる。つまり、商品を現在のライフスタイルや嗜好にマッチさせるとともに、商品の作られる過程や歴史など生産者のストーリーを消費者に伝えることで、より深い関係性を作っていく、ということだ。

「製品を購入するお客様と、作り手、双方を大切にしながら、その両者をどうつなぐかが最も重要です」と楊井氏は話す。

九谷焼を親子二代で手掛ける職人は、400年近くの歴史とその中で培われてきた技術を海外の顧客に伝えることが重要だと話す。海外でブランドを構築することで、なぜ高価になるかを理解してもらえれば、この磁器に10万円という値段がつくことも納得してもらえる。

石川県はかつて加賀藩の一部だった時代から、伝統芸術と文化を発展させてきた。その地で九谷焼を作る北村和義氏は、使う人にいかに寄り添えるかが、商品が受け入れられるかどうかを決めると言う。つまり、飾るのであれば今の住宅事情に合ったサイズ、食器であれば今の料理に適したものを作っていく必要がある。

「私たちは伝統を守るだけでは生き残れません」

羽田未来総研の楊井氏は、中国の陶磁器の購入者はより伝統的な作品を好む傾向があり、欧米諸国の陶磁器の購入者はより現代の生活様式にマッチングする作品を選ぶ傾向があるなど、顧客の好みの違いも認識する必要があると話す。「30年間のデフレがもたらしたものだと思いますが、日本の作り手は価格を安くしよう安くしようとする考えがすごく強いのです」

「安すぎる価格設定は、海外の顧客から見ると『安かろう、悪かろう』ととられてしまいます。しかし例えば『師匠よりも高い値段はつけられない』など、古い暗黙の業界ルールがあります。それを回避する方法は、別の付加価値をつけたものを提供することです」

その一例が、高級着物に使用される西陣織の生地。カモフラージュ模様に織り込まれ、イタリアの会社がスニーカーを作るために使用されている。本来のシルクの代わりに、摩耗の激しい履物にも適応するポリエステル糸を使用したスニーカーは、約4万円に価格設定されている。

そして、その新しいJMCブランドを売り込むには、強力なデジタルプレゼンスが鍵となる。

実際、ラグジュアリー市場の売り上げの80%は、ブランドのウェブサイト、ソーシャルメディア、ブログなどデジタルの世界から影響を受けており、2018 年のMcKinsey&Companyのレポートによると、オンラインで販売される高級品は2025年末までに19%に及ぶと予測されている。

金箔のフェイスマスク、コンセプチュアルアートから陶芸まで、約160点の商品が並ぶJMCのECサイトが2020年10月にオープンした。日野は今後、職人によるライブストリーミングイベントなどのインタラクティブなデジタル機能のトライアルを検討していると話す。

「JMCの商品ストーリー自体は面白い。しかし、それらは海外の買い物客にとっては、これまでに見たことも触れたこともないものです。それも比較的高価な商品であるため、実際に商品を手に取らずに購入してもらうことが難しい。そのため、お客様に商品を体験してもらうための新しいデジタルツールを開発したいと考えています」

日野にとって、JMCプロジェクトは単なる担当業務ではない。学生時代の留学経験をきっかけに、ずっと抱き続けている想いがある。

「他のアジア諸国から来ている学生は自分の国に誇りを持ち、文化などについても詳しく説明することができるのに、自分を含め日本人は日本の文化をプレゼンすることができない、とその時気がつきました。その経験から、日本の良いものを世界に発信してくような事業がやりたいと考えるようになりました」と彼は話す。 「このビジネスを成功させ、日本の作り手やその製品を世界に伝えることが、私の使命です」

(本文は、2020年12月の取材をもとに作成しています)