Scope#19 | Cia Iguaçu de Café Solúvel

ブラジル人の情熱がつくり出す香りと味わい
芳醇なインスタントコーヒーを、オーダーメイドで

アメリカ合衆国建国の父、トーマス・ジェファーソンは、かつてコーヒーを「文明化した社会でもっとも好まれる飲み物」と称した。

紛れもなく、コーヒーは世界中で愛されている。国際コーヒー機関の統計によると、世界の人々が1年間に消費するコーヒー豆の量は1億5300万袋(1袋あたりの豆の量は60キログラム)にのぼる。コーヒー1杯につき約10グラムの豆が使われるので、換算すると1日に約25億杯ものコーヒーが世界各地で飲まれていることになる。

コーヒーは60ヵ国以上で栽培されているが、最大の輸出国であるブラジルが世界の総生産量の3分の1以上を占める。気候の異なる6つの地域で、アラビカとロブスタという2種類の豆を育てているため、豊富なフレーバーを誇る。

インスタントコーヒーの生産においてもブラジルは世界一だ。その国内最大メーカーの1つが、丸紅の完全子会社イグアスである。人口わずか4万8000人の街、コルネリオ・プロコピオ(パラナ州)に最新鋭の工場を有し、年間2万トンあまりのインスタントコーヒーを製造している。

「異なる原料と製法を組み合わせることによって、お客さまのいかなるニーズにも応えられます」。イグアスの社長、エディヴァルド・バランコスは胸を張る。「当社は基本的にオーダーメイドの工場です」

同社製品の75パーセントは、50ヵ国を超える海外の顧客企業に提供される。多様な製法の中からそれぞれのニーズに合ったものを選び、粉末(フリーズドライ、スプレードライ、アグロメレート)または液体のコーヒーエキスをつくる。顧客企業の製品の受託生産も手がけているが、業務用のバルク生産が中心だ。イグアスの製品は、コーヒー飲料やインスタントカプチーノのような商品の原料として使われている。

コーヒーに恋して

市場のニーズはさまざまで、高品質なアラビカ種が好まれる場合もあれば、アラビカとロブスタを均等にブレンドしてほしいと言われることもある。顧客企業からのリクエストとなると、よりピンポイントだ。ブラックでもミルクを入れても、コーヒーとしての強い存在感が残る深煎りを求める企業もあれば、香りを最優先する企業もある。

こうしたオーダーメイド生産は、高度なスキルをもつ食品エンジニアの集団である研究開発チームが、顧客企業から送られてきたサンプルを精緻に分析することから始まる。
「サンプルは、物性、水分含量、成分など、あらゆる面において精査します」と、研究開発コーディネーターのカリーナ・カミナリ・コンノは話す。16年前、大学で食品化学を学んでいた彼女は、インターンとしてイグアスでコーヒーづくりに関わり始めた。
「コーヒーに恋してしまったので、そのまま残りました」と、コンノは当時を振り返る。求められた味と香りを実現するレシピがつくれるようになると、コーヒーに魅了された。「コーヒーは情熱の世界なんです」と言う。
オーダーメイドの次なるステップは、試作だ。これはコンノが「イノベーション・ラボ」と呼ぶ、最先端の設備を誇る試作工場で行われる。このラボがあるおかげで、研究開発チームは工場の生産ラインを止めることなく、実際と同じ工程で素早く試作品をつくることができる。

淹れたてのコーヒーと同じ味わいを追求

イグアスでは生豆の検査をはじめ、全ての工程が厳しく管理されている。貨物が到着すると、「Qグレーダー」の資格を有する担当者がすぐに生豆の抜き取り検査を行う。Qグレーダーは、コーヒーづくりに関わる人を対象とする国際的な資格で、高度な訓練を受けると正確に品質を評価できるようになる。

抜き取り検査の担当者は、水分含量や欠陥、食品汚染の原因となるオクラトキシンAの混入について調べると同時に、当然ながら風味もチェックする。豆が基準を満たしているかどうかを調べるテイスティングのことを、「カッピング」という。まるでワインのソムリエのように、感覚的な特徴を見極めることができる熟練のテイスターたちが、回転式テーブルを囲み、舌でコーヒーの味を確かめ、香りを嗅ぐ。全ての商品に高い品質を保証するために、カッピングはさらに複数回(抽出後、および完成品の状態で)実施する。

検品を終えた豆は生産ラインへ送られ、焙煎して粗く挽かれたあと、抽出工程に進む。抽出を経て液状になったコーヒーは、さまざまな製法によって水と分離されて濃度を増す。こうして濃縮されたコーヒーは、次の工程で結晶になるが、使用する温度によってその製法は異なる(低温乾燥はフリーズドライ、高めの温度の場合はスプレードライ)。スプレードライされたコーヒーは、さらにアグロメレーションという処理を施す場合がある。この工程では、蒸気処理した粒子が塊になったところで再び乾燥させることによって、コーヒーの顆粒がつくられる。

フリーズドライは、コーヒーの風味をなるべく損なわないようにすることができる分、高コストな製法となっている。そのため、高品質商品の原料として使われる。アグロメレートには冷たい水に溶けやすいという特性があるので、アイスコーヒーの原料になるのが一般的だ。

淹れたてのコーヒーと変わらない味と香りの実現は、インスタントコーヒーの生産者にとって最大の課題である。特に香りは、製造の途中で自然に失われてしまうので、維持することが難しい。

イグアスは、香りの消失を最低限に抑えるための工程として冷凍濃縮を導入しているが、これはまだ世界でも例が少ない。冷凍濃縮では凍結温度で濃縮するので、コーヒーが本来もっている香りと味わいを損なわずにすむ。冷凍濃縮されたコーヒーエキスは鮮度を保つため、最終目的地まで冷凍コンテナで運ばれる。主な輸出先である日本や韓国の飲料メーカーは、このエキスを原料として使い、付加価値の高いコーヒー飲料をつくっている。

右肩上がりの世界のコーヒー需要

「当社の工場は24時間、年中無休で稼働しています。問題なく操業を続けるためには、メンテナンスへの投資が不可欠です」

バランコスは、生産設備を充実させることの重要性を強調する。先の低温乾燥に使う機械は、増加し続ける需要に対応するために最近行った設備投資の一例だ。コーヒーの世界市場は年に1~2パーセントの成長率を示している。北アフリカと、中国やインドなどアジアの一部では、年に10パーセントを超える勢いだ。この現象を、バランコスは次のように説明する。

「歴史を振り返ると、日本や英国、ロシアのように、かつてはお茶を飲んでいた国々では、焙煎して挽いた豆をレギュラーコーヒーとして味わう習慣をもつ前に、インスタントコーヒーを飲み始めました。お湯を注ぐだけなので、お茶の淹れ方に近い」

「5S」と「カイゼン」:日本のものづくりの精神を受け継ぐ

1970年代に深刻な霜の被害に繰り返し見舞われるまで、パラナ州は最大のコーヒー生産地として、ブラジルの総生産量のほぼ8割を供給していた。イグアスは1967年、豊富な豆のストックを活用してインスタントコーヒーをつくる道を探っていた地元のコーヒー農家たちによって、設立された。1972年に丸紅が同社株式の35パーセントを取得すると、財務体質が強化され、グローバルな展開が始まり、技術が進歩した。2014年、イグアスは丸紅が100パーセント株式を保有する完全子会社になった。

「丸紅は日本からより高度な技術を採り入れて、イグアスの生産力を向上させました」
そう話すのは、同社の副社長である江坂喜達だ。当時、技術指導を担当した日本人のエンジニアたちは、「5S」の精神も導入した。5Sとは、整理、整頓、清掃、清潔、しつけの頭文字をとったもので、日本企業で広く採用されている職場の規律だ。

採用から25年経った今、5Sはまさしく同社の隅々まで浸透している。工場もオフィスも常時きれいな状態に保たれ、道具や文具は所定の箱やトレーにきちんと収納されている。施設内を歩くとき、社員はけっして通路を横切ったりせず、横断歩道を渡る。そして、日本で言えば「5Sくん」のようなマスコット・キャラクターも存在する。コーヒー豆の「5Sくん」が、金、銀、銅の評価を獲得した部署を表彰してくれるのだ。
「ブラジル人が日本のものづくりの精神を受け入れたことによって、ひとつのイグアス文化になったのです」と江坂は言う。今では視察に訪れた日本企業が、5Sの徹底ぶりを見て驚嘆するそうだ。5Sは全員が実践しており、江坂やバランコスのような経営幹部も例外ではない。彼らのオフィスにもパトロール隊がやって来て、整理整頓ができているかどうかをチェックする。

家庭でも5Sを実践する社員は少なくない。江坂はたびたび、居間の引き出しがきちんと整理されているという話を、社員から聞くという。
「5Sはこの会社で十分に浸透しています」と江坂は語る。「製造の改善にもつながっていますし、製品の良さにも表れている。非常にクリーンな企業イメージをもち、それがお客さまにも伝わっています。一人ひとりが自分の役割を丁寧に、しっかりと務めることにつながっているのです」

大家族のように、一丸となって成長する

コーヒー業界にもかつて、豆の価格変動が招いた厳しい時代があり、イグアスも例外ではなかった。そこからイグアスでは、生産性を最大化し市場環境の変化にも対応できるよう、工場の24時間年中無休の操業体制を常に目指している。
「成長し続けなければなりません。それ以外の選択肢はない」とバランコスは言い切る。イグアスは現在、絶えず変化する市場とその競争に対応できる企業としての未来像を描くため、すべての業務で改革を進めているという。「カイゼンの機会は、いたるところにあります」とバランコスは言う。「人材と彼らの働きぶりこそが、イグアスを差別化する鍵なのです。何をするにも、私たちは必ずより良い方法を考えます」

勤続34年を迎えたバランコスがみずから証明しているとおり、イグアスでは社員が長く働き続け、親から子へとバトンが渡されるケースも珍しくない。そんなアットホームで、「イグアスファミリー」と言えるような環境が保たれていることこそが強みであると、江坂は強調する。そして、同社のビジョンについて、次のように語った。
「いかに良い製品を、いかにお求めやすい価格帯で提供できるか。それを考えるのが我々の大きな役割ですし、そうしたコーヒーを家庭にお届けし、世界中の皆さんにブラジルコーヒーを楽しんでもらうことが、当社の理念です。全員が同じベクトルに向かって、より強固なイグアスをつくっていく――。さらなる50周年を目指して、強くなっていきます」

(本文は、2017年12月の取材をもとに作成しています)